駒門風穴(かざあな)は，約１万年前の富士山噴火で流出した三島溶岩流中に形成された溶岩トンネルです．富士山周辺の溶岩洞穴では最大規模を持っているものの１つとして，1922年(大正11年)に国指定天然記念物に指定されました．

　溶岩トンネルは流動性の高い溶岩流に起きる現象で，溶岩流の表面や下部が冷却されて固まって後に，内部の高温で流動性の高い部分が流れ出してできた空洞です．地球のものだけでなく，月の溶岩流などでも見つかっている現象です．

　空洞ができてからも，溶岩トンネル内は高温が保たれるので，岩石が溶けた不思議な組織ができます．駒門風穴でも，肋骨状組織や溶岩鍾乳石など，溶岩表面の再溶融組織が観察できます．まるで，ギーガーがデザインしたエイリアンの宇宙船の内部のように見えます．
　このような作りを人体内部に例えて「胎内」という考えが生まれ，溶岩トンネル内で修行することで一度胎児に戻って生まれ変わるという宗教的な考えが形成されたのでしょう．

　溶岩トンネルの内部では，目が退化した昆虫などによる独特の生態系が形成されます．１万年ほどの短い間に生物が洞窟に適応して変化したとは考えられないので，元々，光の入らない岩場の深いところに生活していた生物たちが，新しくできた溶岩トンネル内に移動してきて住みついたものと考えられています．