八釜の甌穴群は愛媛県久万高原町永野の黒川にある国の特別天然記念物です．甌穴は30個以上数えられていて，甌穴群としては国内屈指の規模を誇るため，1934年(昭和9年)に天然記念物に指定されました．

　甌穴群は，国道440号から細い林道を徒歩で1kmほど下ったところにあります．よく整備されている林道ですが，すべりやすいところも多いので足回りは山歩きの準備が必要です．山道に自信のない人は無理をしないほうがよいでしょう．

　この付近は，秩父帯の層状チャートが分布しています．説明板には「フリント質」とありますが，フリント(Flint)はチャートの一種ではあるのですが，元々はヨーロッパの白亜紀石灰岩中の珪質ノジュールにつけられた岩石名なので，この地層の岩石名としては用いないのが普通です．
　チャートは硬いので，川の浸食作用で削られにくく，川の傾斜が変わる変曲点を作ります．一枚目の画像で分かるように，八釜の甌穴群より上流は傾斜が急になり，一部は滝になっています．

　八釜の甌穴群がこの場所にできたもう一つの原因は，黒川の左岸で，甌穴群を眺めることができる橋のたもとの絶壁にあります．絶壁は見事な節理面で，この方向が浸食に弱い弱線になります．川の流路の変曲点ふきんで，この弱線の部分に水流で小石や砂が回転しながらぶつかっているうちに，丸く掘り下げられて甌穴ができたと考えられます．

　深い山の中にある天然記念物で，水の色は碧く済んでいてきれいです．川沿いにモミジも多いので，紅葉の季節にはもっと美しい景色となるでしょう．残念ながら撮影時は台風が迫っていて，この後，強い雨になってしまいました．